プロフィール

Author:真紅銀
読み方は「あかがね」。
DMに限らずカードゲーム好きな人。
と、云うよりゲーム好きな人。

ステロイド、グラデビ、ティラノ信仰者。

詳しくはカテゴリー「館主紹介」にて載っております…


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DUEL FORTUNE Phase28「開戦!!DUEL REVOLUTION!!」


夏の日の夕日が落ちて行く、六時頃の住宅街沿いの川べりの道。
黄昏色に染まる空をじっと見つめながら、輪は原っぱに座り込んでいた。
都心部とここを結ぶ大きな橋が近いこの場所、連絡を送った人物と会うべく、ここで待ち合わせをしている。
「…姫野さん、僕に話があるって…なんだろう。」
思い当たりが無い訳ではない。と言うよりも、恐らく自分が思っている事で正しいのであろう。
だがそれで話の内容が一体どんな物であるかまでは判断出来ない。色々考えてはみるが、これだと断定できる訳ではない。
そこに関しては結局、その人物が来るのを待つしかないのである。
そんな当たり前の結論に達した時、彼女の声が聞こえた。
「輪くーん!!ごめんなさい!!お待たせしました!!」
自分の名前が聞こえた瞬間、輪は座っていた場所から立ち上がり、そちらへと視線を移す。
長い髪をなびかせながら、自分をここへ呼んだ本人である少女、鏡香が駆けて来る。
少年の方へと着けば軽く息を切らし、少し疲れたような表情で言葉を続けた。
「すいません…待ち合わせするなら詳しい場所決めておかなきゃいけないのに…私のせいで待たせちゃって…」
「いえ、どうせ暇ですし…取り敢えず、座りませんか?」
目の前の少女の様子に思わず気を使いながら、立ち話もなんだし、と言うような表情で言葉を紡ぐ輪。
それを聞いて、隣良いですか?と言う風に鏡香が聞けば、彼は肯定の意思を見せ同時に座った。
二人で夕日を見遣りながら話す形になり、暫く無言のまま時間が過ぎていく。
「…輪くん、ここに呼んだ理由なんですけど…」
沈黙を破ったのは、鏡香の方からであった。呼ばれれば彼女の方を向き、輪は話を聞く体制へと移行する。
僅かな緊張感に包まれながら、それを振りほどいて少女は口を開き、自分の意思を伝えた。
「全国大会、出るかどうか考えてるそうですよね。」
誰から聞いたのだろう、と言うような表情で輪は少し感嘆を表していたが、次の瞬間にはそれを元に戻し、頷く。
「うん…出たい、って気持ちはあるんです。でも、前の事を考えると、まだ少し怖くて…」
正直な胸の内の気持ちを明らかにして、少し俯く少年。
鏡香にもそれは理解出来ない訳ではなかった。彼が初めて大会に参加した時の事は、自分も良く見ている。
知識不足と緊張感、そこから来る相手の苛立ち、更にそれにより再び生まれる緊張感により、ボロボロになってしまった前回の事。
小さな大会でそれならば、大きな大会ではそれ以上の事をと連想してしまうのも無理は無い思考ではある。自分が同じ立場なら、どうだっただろうかとも考えられる。
それらを全て思考の中に収め込んだ上で、鏡香は彼への言葉を届けるべく、行動した。
「輪くん。」
ただ一言、名前を呼ばれて困惑しながらも輪は首を動かし、少女の方を見る。
こちらへと視線が注がれたタイミングで、相手である鏡香がゆっくりと口を動かし、次の言葉を告げた。
「覚えてますか?私と最初にデュエルした日…ううん、私と最初に会った日の事。」
問われれば輪は、頭の中で自分の記憶を掘り返して言われた日の事を思い出す。
忘れているはずは無かった。彼にとってその日は、今この瞬間全てに繋がる日。
デュエルマスターズを手に取り、多くの人物と知り合い、心を通わせるきっかけになった日。
そんな日を忘れる訳は無い。その時起こった出来事の衝撃も含めて、である。
「うん、あの日ですよね。姫野さんが《ミスト・リエス》を呼び出したのを僕が見て、それを魔女っこごっこって言ってごまかした…あっ!!」
ここまで言って、輪は自分が禁句を口にしていた事に気付いていた。
不可思議な事象自体は既に解説を受けており、秘密を共有している身分ではあるが、それのごまかし方に関しては黙っていて欲しい過去である事を思い出したのだ。
一歩遅れて気付き、相手の顔を見た時には彼女の表情は真っ赤になっており、体全体を思いっ切り地面に沈めている体制になっている。
「りーんーくーんー…それは思い出させないでくださいって言ったじゃないですかー…」
「ご、ごめんなさい!!で、でも、あの時の事、覚えてますかなんて聞かれたから…!!」
慌てながら両手を前へと突き出し、それを振って落ち着かせるような行動を輪が取る。
二人の会話が停滞した数十秒後、横目で一折その様子を見ていた鏡香は起き上がって、話の続きをし始めた。
「…えっと、それは取り敢えず、さておきまして…私から見て、輪くんはあの日から大きく変わったと思います。」
面持ちを真っ直ぐな、柔らかい笑みに変えて、過去を思い返しながら言葉が告げられる。
訳が解らないような表情でそれを聞いていた輪は、思わず疑問を目の前の少女に向かって口に出していた。
「変わ…った?僕が、ですか?」
極めて疑問気に告げられた問いかけに対して、何の迷いも無く鏡香は答える。
「はい。初めて私と会った日から、随分輪くんは強くなったと思います。」
真剣に言葉を告げる少女の表情を見て、本気で言っている事を汲み取り、輪は自分の思考を回転させる。
確かに何も知らなかったあの日から考えれば、デュエルマスターズで強くなっているのは当たり前だろう。そこは自分でも理解出来ている。
それでも強豪プレイヤーと肩を並べられるかと言えば、その自信は全く無く、今でも目の当たりにする彼等の強さには、到底太刀打ちできるとは思えない。
「そ、そんな…僕なんて、まだまだ弱くて…戦部さんや阿久津さんに勝てる程、強くないですし…」
夕日の方へと視線を変えて、俯きがちに少年は言葉を紡ぐ。
鏡香も、彼が口に出したプレイヤーの強さを知らない訳ではない。間違いなく第一線で戦えるデュエリストに、自分も負けてばかりである。
それを知った上で、彼女もまた視線を夕日へと向けて、ふるふると首を振って次の言葉を口にした。
「変わったのは、デュエルマスターズの強さだけじゃないですよ?」
刹那、輪の視線が不思議そうに少女へと向けられる。
「どういう…事ですか…?」
首を傾げて彼がこちらを見ているのを感じれば、鏡香もまた再び少年へと向き直り、思い返しながら話しかけた。
「私と最初にデュエルした日から、輪くんは何かを変えようと必死だったように見えます。それが何なのかは、良く解りませんけど…弱い自分を変えようって言う風に思っていたのは解ります。」
話の内容に、頭を縦に動かして肯定の意思を輪が見せる。
鏡香の言っている事は事実である。デュエルマスターズを始めたのは、自分の意思でやりたいと思った事を踏み出したかったから。
今まで人に流されてばかりだった自分を変えたいと思ったから。だから今この場にいる。
思考が頭を巡っている間に、少女は次の言葉を紡いだ。
「その後、誠さんに連れて行かれた私に、輪くんは一生懸命会おうとしてくれましたよね。あの日から、輪くんは強くなってると思うんです。私だってちょっと怖い、って思う誠さんに、デュエルであそこまで食い下がって立ち向かうなんて、すごいと思いますし、私も有難いって思います。」
言われた時の事を、輪は半分照れたようにして思い返していた。
とは言え、件の日の事は無我夢中になってやっていた事である。もし今この瞬間、同じような事が起これば、もう一度同じ事が出来るという自信は無い。
だがそんな思考を打ち払うかのように、鏡香の言葉が更に告げられる。
「暫く経って、私と一緒にコンサートに行った時も、私は輪くんはすごいって思いました。あんな大勢の観客の中で、姫子ちゃん相手に頑張って、後一歩の所まで追い詰めて…しかもその時に『最後まで諦めないで』なんて、普通のデュエルでも中々言えないですよ、そんな事。」
この日の事を告げられた瞬間、輪は目の前にいる人物が自分の想像以上に自分の事を見ていてくれていた事に気付いていた。
恐らくは彼女がいなかった時の事も、そこにいた彼女の知り合いから聞いているのかもしれない。
しかも、彼女は自分の事を大きく見てくれている。これは重大な事実であり、想像もしていなかった事であった。
「…でも、僕はまだ弱くて、同じような事を同じ時に、出来るなんて思えなくて…」
「ううん、輪くんならきっと、また同じ事が出来ると思います。」
弱気な発言は、言い終わらない内に否定される。
それ程までに彼女は少年の事を、高く評価していて、その視線は、彼が想像している以上に近い目線から向けられている。
一つ、深呼吸をするような間が開けば、心からの感情を向けた表情で、鏡香は笑んでみせた。
「載依さんも誠さんも、きっと気付いてるはずです。それだけ強くなった輪くんなら、輪くんが心配してるような事、もう二度と無いと思うんです。」
言葉が告げられれば、もう一度輪は、あの日の事を思い出していた。
その時自分は、確かに知識不足から相手の手を煩わせ、楽しくないデュエルをしてしまっていた。
だがそれを同じ位の原因となったのは、自分の緊張感から生まれる、知っている事さえ失念してしまう事。
今の自分なら、同じ事が起こりえるだろうか?自分へと向き合い、問いを投げかける。
その果てに、出た答えは―――
「だから、その事で大会に出る事ためらってるんだったら、心配ないですよ、って言いたくて…!!それでも、大会に出るかどうかは、輪くんの自由ですけど…!!」
結論が出た所で、申し訳無さそうにこちらへ平謝りをするような表情で口を開いている鏡香を見て、輪は立ち上がる。
唐突に座り込むのを止めた相手の姿を少女が見上げていれば、少年は彼女の方を向いて微笑んで、一つ礼を交わした。
「有難う、姫野さん。心配してくれて…それと、僕の事なんか褒めてくれて。」
暫く呆然としていた鏡香であったが、その言葉を告げられた瞬間、わたわたと体全体であわてふためき、照れたようにする。
それを見て彼女に向かい、二回程首を横に振れば、真っ直ぐに夕日を見上げ、決意を新たにするように強い表情をした。
「僕、全国大会に出ます。何処まで出来るか解りませんけど、それでも、自分の力を試してみたいんです。どの位、強くなったのか。」
デュエルマスターズの強さだけではない、もっと大事な強さを確かめる為。
その事を頭の内で理解しながら、鏡香は少年の意思を聞いて、嬉しそうに一つ頷く。
「…はいっ♪」
黄昏時の静かで優しい日の光が、辺りを照らし出していた。


辺りが闇に包まれた広い一室の中。
僅かな灯りがそこにある物を映すその空間に、四人の人影が存在していた。
「召集だなんて珍しいぴょん?一体何があったんだぴょん?」
兎の耳を頭につけたスーツ姿の少女、羽美兎が、疑問気に首を傾げてその場の人物へと問いかける。
その言葉を聞いてすぐに反応したのは、黒い長髪に流線型の帽子を被せたギター弾きの青年、天琶であった。
「さあーねえー…ま、唐突に全員集合なんてかけられるのは、今に始まった事じゃないだろ?」
気楽そうに告げられた言葉に対して、同意を表す行動をする二人の少女。
その内の一人である黒いドレスに身を包んだ人物、塔屡は無愛想な表情をしながら、静かに口を開いた。
「今回私達を集めたのは貴方よね、志上…一体何があったの?」
問いかけられながら彼女の隣にいた人物、仮面で素顔を覆った黒ずくめの青年、志上はそれを聞いた瞬間歩き出し、全員の前へと立った。
感覚的に、とても重要な話である事を三人は察知する。暫し押し黙って、眼前にいる人物の口が開かれるのを待つ。
「…紫苑(しおん)から指令があった…俺達四人で、今回開かれるデュエルマスターズの全国大会、「DUEL REVOLUTION」に参加しろ、と。」
「全国大会?!!」
すぐさま大きな声で反応を示したのは羽美兎であった。とても嬉しそうな様子でそわそわし始めた後、辺りを飛び跳ね回る。
「やったぴょーん!!大きな派手な大会に出られるぴょん!!思いっ切り暴れてやるぴょんー!!」
せわしなく辺りをジャンプしながら動き回る自分達の身内の行動に、残った三人はとても鬱陶しそうにしている。
それはさておいてと言うように、一つ溜息をついた後、ギターを一つ爪弾いて天琶も口を開いた。
「でも、全国大会かー…羽美兎程じゃねえけど、俺も楽しみだ。任務で遊べるとなりゃあ、張り切らねえ訳はねえよなあー…?」
「私は嫌だわ。」
問いかけられるようにして告げられた青年の隣にいた塔屡は、心底から不快感を表すように呟く。
暫し間を空けた後、一歩、また一歩とゆっくりしたペースで志上の下へと歩み寄れば、再び首を傾げて追求する。
「大体何で、私達が大会に出る必要があるの?私達は別に、デュエルマスターズの大会で優勝したい訳じゃないでしょ…?」
「それについては私から、直に説明させてもらおう。」
そこまで告げた所で、部屋の片隅にある一本の道から割り込むように声が響く。
暗がりの向こうに立っていたのは、今にも地面につこうかという長い裾の白衣に身を包んだ男であった。
かなりの長身に、首から下がった長いネクタイ、白衣をたなびかせている、三十近いだろうかという男。
そんな彼は僅かな光に眼鏡を光らせ、白く染められた髪を揺らし志上の近くへと歩み寄る。
この人物はここにおけるトップに極めて近い存在であり、またその人物に近づける唯一の存在であった。
しかしそれを除いても彼からは、何処か恐ろしい雰囲気が漂っていた。いかにも怪しい空気を纏った人物ではあるが、それとはまた別の恐怖が彼を包んでいる。
志上と塔屡はそれを感じても表面上どうこうとはしなかったが、羽美兎と天琶は彼の瞳が何を見ているか解らない恐怖を感じ、震えたようにしていた。
「し…し…紫苑さん…今日はどう言ったご用件でこちらへ…ぴょん?」
名前を呼ばれた男は、彼女の動向を意にも介さないかのように、怪しい笑みを携えて口を開いた。
「言ったはずだよ、羽美兎?私は志上の代わりに今回の任務の理由を説明に来た、と…」
「そ、そうでしたね…もう本当すみません…!!こいつと来たら人の話を聞かない奴で…!!」
羽美兎の横にいた天琶が、彼女の頭を無理矢理下げながら作った笑みで返し、謝罪の意を表す。
「君が謝る必要は無いよ、天琶…?それより、これを見てくれないか?」
一瞥してそれを見た後、くすりと一つ笑って返した後で彼は手元にあったタッチパネルを操作して、モニターに映像を映し出した。
全員がそれに視線を集中させた所で、紫苑は全員を見下ろせる位置まで歩き、説明を始める。
「これが今回の全国大会の舞台、デュエルアイランド…本当は別の名前があるが、今はこの名称で呼んでおこう。そこでサバイバルデュエル、をしてもらうらしい。」
「サバイバル…デュエル?何なのそれ…」
不機嫌そうな表情を浮かべて塔屡が口を開く。確かにモニターには中々の規模の島が映っており、恐らくはここでデュエルを繰り広げる事が予想される。
その場の全員が固唾を飲んで説明の続きを待つのを見遣れば、続けて紫苑は笑みを浮かべて説明を述べた。
「詳しいルールは極秘事項で、私もそこまでハッキング出来なかったよ…だが、参加者の規模は既にかなり大きくなっているようだから、こんな広い島でも使わないとやってられないだろうね…」
表情は依然として変わらないままではあったが、それでもある程度の説明を受け塔屡が頷いている。
彼女の様子を目に入れれば、続けて恐る恐る羽美兎が挙手して質問を要求し、言葉を投げた。
「あの…それで私達は、どうしてこの大会に参加するんだ…ですかぴょん…?」
ふむ、とその声に反応して、主である彼女の方を見遣る紫苑。
羽美兎が軽く戦いたのを確認すれば、再び後ろを向いて彼は通路へと歩いていく。
自室へと帰るのだろうか?と全員が疑問気に紫苑を見遣れば、背を向けたまま彼は質問に答えた。
「この大会の規模はかなり大きい。ならば、我々の計画の最後の手駒が見つかるかもしれないだろう?」
暗い通路へと足を進めながら、人差し指を立てて解説を向ける。確かに彼の言う通り、自分達の仲間を集めるならばより多くのデュエリストが集まる場所で行った方が効率が良い。
詰まる所、この大会への参加目的はあくまで優勝ではなく、最後の仲間を集める事。
それを全員が理解した所で、紫苑は足を止め、体全体を振り向かせ言い放った。
「それが成功すれば…我等の計画を始動する。即ち「dilettante」、完全始動だ。」
自分達の組織の、完全始動。
それを告げれば男は闇へと溶けるように、その姿を通路の奥へと潜ませていく。
姿が見えなくなった所で羽美兎と天琶が安堵の声と溜息をついた横で、塔屡は志上を見上げて不機嫌な表情を直し、話しかけた。
「私達の、完全始動…もしそうなるなら、くだらないこの大会に出る意味、あるかもしれないわね…」
こくり、と静かに志上は頷く。自分達の目的が達成されるのが、もう目の前かもしれないのだ。
そうなれば、今まで自分達がここで動いてきた事が全て報われる。塔屡の頭の中で、そんな考えが浮かんでいた。
だが、静かに彼女が想いを馳せていたその刹那、横から突然の介入者がやって来る。
「あー!!怖かったぴょんー!!紫苑さんどうしてあんなに怖いんだぴょん?!!」
がばっ!!と大きな音をさせて、羽美兎が塔屡の小さな体に思い切り抱きついた。
何度も繰り返された行為だが、未だ慣れる事の無い、寧ろ不快な行動に彼女は再び表情を不機嫌な物へと戻し、まとわりつく手を振り払った。
「…抱きつかないでって言ってるでしょ…紫苑があんなのは、何時もの事じゃないの…」
「だってだってー!!塔屡ちゃん、良く平気でいられるぴょんー…」
塔屡が頭を痛めているその横で、志上は二人の様子を何とも無しに横目で見遣っていた。何度も繰り返された、何時もの光景。
そちらへと意識を遣っている間、ふと予測の範囲外から声をかけられた。もう一人の青年、天琶の声である。
「ところで、志上。お前自身は大会に出る事、どう思ってるんだよ?」
「俺…か?」
黒ずくめの青年が声を出せば、言い争いをしていた二人もそれを止める。
考えてみれば、彼自身はこの大会に参加する事に対して何の感想を告げていないのである。
何時も無反応、無感情な男ではあったが、少々気になる所ではある。全員が耳を澄まし、回答を待つ。
全員の反応を一瞥すれば、志上は彼等全員に背を向け、ゆっくりとした口調で話し始めた。
「…俺は、別に構わない。たまにはデュエルしておかないと、腕も錆びるからな…」
外套の中から片手を出し、デッキを手にする。予測外に意欲的である事を、三人は何となく感じ取っていた。
「それに…もしかすれば…」
仮面の奥に秘められた表情を、誰にも見せる事無く歩き始める志上。
闇の中、秘められた野望が確かに今動き出そうとしていた。


「わあっ!!アレが大会会場ですよね!!大きい島ですねー…」
大海原を進んでいく、一隻の巨大客船。
正面の窓から眼前の広がる景色を臨んでいた鏡香は、この大会の会場の規模を目の当たりにして感嘆を口にした。
まだ出航した港を発ってから一時間も経たない距離にある巨大な無人島、ここが今回の全国デュエル大会の戦場となるのである。
「他の港からも参加者を乗せた船が来てるらしいね。こりゃあ想像以上に、規模が大きそうだ。」
辺りに存在している他の乗客を見ながら、載依もまた感想を告げる。
彼女の視界に映るここに集まった多くの人々。その全てではないが、殆どの人物が自分のデッキを片手に、この場所へと集まっている。
仲間と共に談笑する者、緊張感に満ちた表情をする者、トレードに駆け回る者。
行動は違えど、最終的な目標はたった一つ。この大会での栄冠を掴む為。
たった一人という狭き門を潜り抜ける戦いが、後十数分で始まろうというのだ。
「もうすぐ、始まるんですね。全国大会…」
載依の横にいた輪が、緊張に満ちた表情で進行方向の島を見遣りながら話しかける。
彼にとっては初めての大きな規模での大会である。意識するのも当然といえば当然であろう。
それを察知した載依は、ぽんぽんと少年の頭を軽く叩きながら安心させるかのような口調で返してみせた。
「緊張してる?大丈夫だって!!今の輪ならきっと…ね。」
弾けるような笑いに、何処か肩の力が抜けるような感覚がした輪。
強張った表情を柔らかくした次の瞬間、彼は不思議な物を見た。
「…え、何これ…チラシ?」
空を舞っていたそれを何とも無しに手に取り、取り敢えず内容に目を通す事にすれば、そこに書かれていた内容に輪は思わず後ろを振り向いた。
「…コスプレ喫茶「ハーヴェスター」デュエル大会記念サービスのお知らせ…星等さん?!!!」
大きな声で名前を呼んだのに対して、その場にいた鏡香と載依も一緒にその方向を見遣る。
視線の先にあった物。それは百合とフリルで飾られた黒い服に身を包んだ女がチラシを撒いている姿だった。
「えー都内某所、可愛い女の子と美味しいデザート満載のコスプレ喫茶ハーヴェスター!!明日から割引サービス期間だよー!!このチラシを持って来店された方には…」
圧倒されながらも、彼女のインパクトと大きな声が気になりチラシを手に取る選手達。
彼等で自分の周りを囲ませながら自店の宣伝をする知り合いを見て、輪は唖然呆然とするばかりであった。
「輪、あの子と知り合いなの?」
苦笑気味に先程名前を呼んでいた事を思い出しながら、載依は気になった事を疑問にしてぶつける。
対して輪は、まだ意識のはっきりしない頭を押さえながらゆっくり頷いた。
「はい…ちょっと前にデュエルしてもらった事が…」
どういう経緯があってコスプレ喫茶の店員とデュエルしたんだろう、という疑問を頭に抱かせながらも、載依はそこの部分は辛うじて頭で留める。
複雑な出来事があったんだろうな、と想像しながらも取り敢えず彼女は横にいたもう一人の人物である鏡香に話を振った。
「やー…すごいねあの子。デュエルもあんな元気一杯でやるのかな…ねえ、鏡香…?」
最後の辺りの言葉は、やや尻切れトンボな様子で伝えられた。
宣伝活動を行う彼女の仮装衣装。明らかにそれに、呼びかけた人物が目を奪われていたからである。
「え、ちょっと、鏡香…?」
「電様のコスプレ衣装…わあ!!」
次の瞬間、鏡香は載依が呼びかけている事にも気付かず、嬉しそうな表情を浮かべて星等の方へと向かって行った。
子供のような反応で彼女の元へと駆けつければ、初対面であるのも忘れて勢い良く話しかける。
「あ、あの!!それって「リリィメイデン」の…」
「え?!!知ってるんだ!!面白いよねー、アレ!!」
作品の名前を聞いただけで素早く反応した星等に向かって、鏡香も更にその勢いを強めて続けていく。
「はい!!キャラが可愛くて…私は金剛石ちゃんが好きなんですけど…」
「あ、あの子のコスプレ衣装作ってるよー♪たまに着てるから、良かったら今度店にも来てね?」
「じゃあ、今度遊びに行きますね!!でも、その衣装も似合ってます…」
「本当?!!有難うー!!良かったらまた着てみない?!!」
後数時間は続こうかと思うような二人の会話、鏡香の意外な趣味。
その全てに圧倒されながら、載依は輪に向けて助けを求めるような声を出した。
「えっとさ…輪は、あの子が着てる衣装のキャラが出て来る漫画、知ってる…?」
「知らないです…姫野さん、読んでたんですね…」
完全に置いて行かれたような感覚に捕らわれ、溜息を同時に一つつく二人。
刹那、背後からもう一つの声が聞こえてきた。
「やっぱり来たんだね。あの店員さんも、君も。」
何処かで聞き覚えのあった声に、一歩遅れて反応する輪。
そこにいたのは、スケッチブックを片手にした、前に会った事のある青年だった。
「あ…!!えっと…風留さん、でしたっけ?」
確かめるようにその名前を呼ばれれば、くす、と口元に手を持って行きながら一つ笑って、彼は首をゆっくり縦に振ってみせる。
「覚えててくれたんだ。また会えたね。横にいるのは君のお姉さんかな?」
あまりの予想もしなかった発言のお陰で、一歩遅れながら載依はそれが自分に向けられている事を知る。
目の前の青年と同じようにしてははっ、と笑えば彼女は首を横に振って答えた。
「そんなに若く見えるかな?嬉しいけど、私はこの子の保護者役、って所かな…戦部載依だよ。」
名前を告げられた瞬間、青年、夢限は感嘆を表情で表し、胸に手を当てて口を開く。
「ああ!!貴女があの有名な、前「DUEL REVOLUTION」準優勝者であり強豪デュエリストの…」
うんうん、と頷き、得意そうな表情を見せる載依。
彼女の戦績に誰もが驚き、敬意を表すのは何時もの事だと慣れていた輪は、一つ重大な事を聞き流そうとしていた事に気付いた。
「…え?!!戦部さん、前の大会で準優勝してたんですか?!!」
大きな声に、船の中の乗客がざわめく。自分と同じ船の中に、前回の大会での名プレイヤーが乗っているのである。
顔を知っている者の衝撃は比較的少なかったが、その事を知らなかった者の中には動揺を隠せない者もいた。
ふう、と辺りの様子に溜息をつきながら載依は床を一瞥した後、微笑を浮かべて話す。
「まあ、ね。腕試しで出てみたんだけど、意外に良いトコまで行っちゃってさー…」
重大な事をさらりと告げる様子の彼女に、輪は何処か違和感を感じていた。
少なくとも、こんな軽い乗りで言う出来事ではないのは確かである。現にその事実を知っただけで、回りのプレイヤーの視線はこちらへと注がれている。
羨望や緊張、感動、尊敬、様々な感情の篭った物が刺さるのを輪が感じている中、夢限は体制を変えずに続けた。
「あの時のデュエルは俺も見ましたよ。素晴らしいプレイで、その時の試合を見た瞬間、それだけでもう何枚も絵が描けましたから。」
「上手だねえ…君。残念だけど、おだてても何も出ないよ?」
と言いつつ、少し照れた顔をして返す載依。
二人の様子を一折見て、満足そうにした夢限は一言だけ置いて、背を向けて去っていく。
「それじゃあ、また会えたら。向こうでデュエルする事があれば、手加減無しでね。」
周りの様子を気にする事も無く、平常心を保って歩く彼の姿を見送りながら、輪は先程その青年が言っていた事の詳細が気になって声をかけた。
「えっと…戦部さん、前回の大会での準優勝って…決勝の相手はどんな人だったんですか?」
自分の知る限り、今この近くにいる人物は最強クラスのデュエリストだ。少なくとも目の前で彼女が負けた事を見た事は無い。
ならば、そんな彼女を打ち負かせる人物というのは一体どんな人物なのか、輪の頭の中ではそんな疑問が浮かんでいた。
質問を問われた載依は少年に向かって一つ視線を投げ、少し思案した後で口を開く。
「そうだねえ…今回の大会にも参加してるだろうから機会があれば見る事もあるだろうけど…あ。」
聞かれた人物を頭に描きながら載依がそれを説明しようとした時、彼女の指が一方向に向けられた。
何だろう、と言うような表情で輪がそちらを見遣る。そこにいたのはもう一人の、彼も良く知る同行者。
デュエルマスターズのカードボックスを両手に抱きかかえ、銀色の髪とアクセサリーを揺らしながら歩く青年、阿久津の姿だった。
「おーい…買って来てやったぞ…姫野は?」
面倒だった、と主張するような空気を纏わせながら、先程までここにいた少女の姿が見えない事に対して、青年が首を傾げる。
それに対して二人は溜息を一つつきながら同時に同じ場所を手で示し、未だ暴走を続ける鏡香を彼に見せた。
「…オイ…何やってるんだあいつは…つうか誰だ、一緒になって話してるあのコスプレ女は…」
「何かねえ…好きな漫画の趣味が合ったらしくて、さっきからあの調子なんだ…引き止めようにもちょっと無理っぽくて…」
無理矢理にでも引き摺って来ようか、と何時もの調子で連れて来る事も一瞬阿久津は考えたが、彼女の勢いを見てそれが不可能と判断する。
鏡香の趣味については詳しくでは無いが、彼も知らない訳ではない。そして意外な程それに対して、熱を見せる事もである。
「ったく…まあ、あいつには後で渡しておくとして、ほら、お前等の分だ。」
頭を掻きながら自分の連れている少女の様子に呆れた様子を見せた後、彼は輪と載依に向かって一つづつボックスを渡した。
そこに踊っていた文字は「デュエルマスターズ 極神編 人造神の創造」。
まだ一般発売は一月程先の最新パック、それがこの会場で限定発売されている。
参加チケットと引き換えに一人一箱まで購入可能であるこのパックを買う為に、阿久津は載依に頼まれて一人販売所まで行って来ていたのだ。
「わあ…!!有難うございます!!わざわざ買って来てもらって…」
「いや…買って来た事に関してはともかく、金はお前が出したから、別に良いんだが…」
「へへー。有難うね誠ー♪こんな事頼んでさ。」
「お前は自分で買いに行けよ…良い大人が年下にパシリなんざさせやがって…」
それぞれに様々な感情をしながら、話し合う彼等。弾む会話、開けたパックから出てくる新しいカードの数々。
能力に一折目を通せば、それが必要かどうか判断し、足りなければ持っている誰かと交換する。
「あ!!新しいパック買って来てくれたんですね!!有難うございます誠さん!!」
「あれ?輪くんだー♪私もそれ買ったから、良かったら一緒に開けようよ?周りにいるのは…輪くんのお兄さん達かな?」
話をある程度終えたのか、それともこちらの様子に気付いたのか、戻って来た鏡香とそれについて来た星等。
彼女達二人を見れば、そこにいる三人もそれぞれに口を開く。
「兄じゃねえ…運野は俺等の連れだ…。取り敢えず、姫野が迷惑かけたな…」
「ううん!!全然!!こちらこそ、長々とごめんなさいね?」
「いや、良いんだけどさ…と言うか、君、ここでコスプレ喫茶の宣伝って、随分図太いね…」
「こう言う人なんです、戦部さん…悪い人じゃないんですけどね。」
「そうですよ!!星等さん、とっても明るくて良いお姉さんなんですよ!!」
人数が増えた事によって、更に騒がしくなる自分達の周囲。
今この場で行われている仲間とのやり取り全てに、輪はこれから行われる大会が楽しい物になるという確信を得ていた。
近づく会場、デュエルアイランド。決戦の瞬間が、刻一刻と迫っている。


「みんなー!!今日は全国デュエル大会「DUEL REVOLUTION」に来ていただいて、有難うございますわー!!」
見渡す限りの晴天、輝く夏の太陽の下。船が着いた港からそう遠くない場所にある、特設会場。
その高い壇上から大きな声を張り上げて、アイドルデュエリストである姫子はこの大会の進行役の一人として仕事をしていた。
勿論、アイドルとしての活動も忘れておらず、この台詞を言う数秒前まで、自分の新曲を歌っていたばかりである。
(三門屋さん、相変わらず元気だなあ…)
かつて彼女とひょんな事から知り合った輪は、その時の彼女と今の彼女が変わりない事を確認していた。
参加者の選手に向けて話を向ける姫子の声を耳にしながら、彼は辺りを見回し、その様子を見遣る。
(…本当にもうすぐなんだよね、始まるまで…)
船の中でも感じていた緊張感ではあったが、それがここに来て加速していた。
数分前まで談笑していた鏡香や阿久津の表情も、今は何処か真剣な物になっている。
載依や星等はこの場の雰囲気を思いっ切り楽しんでいたが、彼女達ももうすぐ真剣勝負が始まるという事を忘れてはいないだろう。
思考に全ての意識が向き、輪の頭の中が半分真っ白になる。
その瞬間、ふと彼の耳に、このイベントを進めていた姫子の声が入った。
「さあて!!それではスペシャルゲストの方と一緒に、今回の大会のルールを説明致しますわよ!!」
スペシャルゲスト、と言う単語に、思わず輪は反応する。
自分もかつて、彼女のコンサートにおいてゲストとして出演し、大舞台でデュエルを行った事があるのだ。その時の記憶が蘇る。
(まさか、今回も…いやでも、あれから今日まで、三門屋さんには会ってないし…!!)
落ち着け自分、と言わんばかりに胸を押さえる。自分がこの場で呼ばれる可能性は、極めてゼロに近い。
前回そんな状況で呼ばれたのは確かではあるが、その時よりも今回は更に事象的にも確率的にも低いのも確かである。
もっとも、彼女が何らかの手段で会場に来ている人物の姿を全部見ているのであれば、話は別だが。
「さあて、それじゃあ今回のゲストをお呼び致しますわよ!!せーの…」
思考を張り巡らせている間に、姫子がゲストの名前を呼ぼうとする。
自分が呼ばれる訳は無い、そう高を括りながら固唾を飲んで輪は状況を見回す。
次の瞬間、その名前が告げられる。結論から言えば、それは少年の名前ではなかった。
ただし、彼を驚愕させるには、十分過ぎる名前。
「デュエルヒイイイイイイイイイロオオオオオオオオオオっ!!タロウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
『ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ?!!!』
叫んだのは輪だけではなく、名前が示す人物を知る、鏡香、載依、阿久津も一緒である。
そんな一部の人間の絶叫はアイドルが作り上げた場の雰囲気からの歓声に打ち消され、呼ばれた男は登場した。
迷彩服姿の上からジャケットを着込んだ青年。サングラスを太陽の光に光らせながら、タロウと名乗る男、陽太郎は決めポーズのような物をとってマイクをかざした。
「皆!!デュエルヒーローのタロウだ!!今日は姫子ちゃんと一緒に、今回の大会のルールを説明するぞ…!!」
誰だろう、と言うような疑問が各所から上がりながらも、取り敢えず盛り上がる場の雰囲気に合わせてテンションを上げる選手達。
そんな人々の中、先程までその中にいた載依は目に見える動揺を見せながら呟く。
「ちょ…何で陽太郎が、大会の司会進行になんかなってるの…?!!」
小さな声ではあるが、近くにいた輪にはそれが聞こえる。
彼女がうろたえる珍しい光景を目にしながら、彼はその理由を脳内で想像していた。
(連れて来られたんだ…東雲さん、きっと船の出港場所か何処かで目をつけられて連れて来られたんだ…!!)
最後のちょっと引きつったような発言から陽太郎の心境を察すれば、こんな答えしか出てこない。
デパートで歩いていた少年を見つけ話しかけ、たった数分でコンサートのゲストに招待した姫子ならやりかねない行動だろう。
何故彼がデュエルヒーローの衣装で参加しているのかまでは解らなかったが、そこに載依が突っ込まない事からある程度判断する。
色々と混乱する頭に整理をつけた頃には、姫子と陽太郎による今大会のルール説明が行われていた。
「今大会は、この島の各所に点在する立体映像デュエル装置を使用して戦ってもらいますわ!!この島の何処で戦うか、それは自由ですわ!!」
そう叫べば同時、壇上に立つ二人が腕を高々と上げて選手達に示すようにしてみせる。見ていた彼等の目に映ったのは、その腕に巻かれた見慣れぬ物であった。
何だろう、という疑問が聞こえてくる頃、次の説明が向けられた。
「私達が今腕に巻いているこれは、今大会のキーアイテムであるデュエルウォッチ!!今みんなにも配られているはずですわ!!」
辺りを輪が見回すと、選手達が話に上がったのと同じような物を選手番号が書かれた札と引き換えにもらっているのが見える。
ほどなくしてそれは、彼や他の仲間の元へも配られた。
「皆!!ちゃんと行き渡ったかな?!!このデュエルウォッチには現在、30:00と中心に大きく映っているはずだ!!」
「この数字は三十分を示してまして、大会の開始と同時に減って行きますわ!!そしてゼロになった瞬間機能停止し、その方はゲームオーバーになりますわ!!」
時間制限付の条件、が加えられる。つまり、この三十分の間にある条件を満たさなければ、この大会から即刻脱落してしまう。
そう判断した輪は、緊張した顔で眼前を見ながら、次の説明を待つ。
「このカウントをリセットする方法はただ一つ、この島の何処かでデュエルをする事!!」
「デュエルステージについた瞬間、デュエルウォッチのカウントは再び30に戻りますわ!!」
安堵の声が辺りから聞こえる。確かに、三十分以内に一回でもデュエルをすると言う条件なら、時間制限内での脱落は逆に難しい。
しかしその考えは、次に説明されたルールで打ち砕かれる事になる。
「ただし…デュエルに敗北すれば、やはり即刻ゲームオーバー!!デュエルウォッチの機能がステージの対戦結果を受信し、停止致しますわ!!」
一回の負けも許されない。続けて告げられたルールに、誰もが緊張を隠せなかった。
逃げ続ける事もまた許されず、極限の状態での戦いを強いられる。優勝する為には、それに勝ち抜くしかないのである。
この状況の中、輪は思案する。
(…一回でも負けたら終わり…厳しいルールだなあ…)
思考している横で、デュエルに負けても観戦や島内の散策、プレイヤー間のトレードは自由、と言う旨を伝える声が響く。
サブイベントも多数用意してあるようであり、負けた人間への配慮を怠っている訳ではない。
だがそれでも、大会という舞台で戦い続ける為には、この過酷な条件に耐えるしかないのだ。
(でも…)
その不安を振り払う、強い感情。
今までの自分であれば恐らく生まれなかったであろう思いが、輪の心を動かしていた。
(…すぐに負けたって良い、僕は自分の強さを確かめたい…!!)
静かに握り拳を作って、強く強くそれを固める。
その瞬間に、説明を聞いていた載依がふと目を遣った瞬間、彼の様子が目に入った。
確かな強い意志、この状況下においても尚、戦う事を今か今かと待ちわびている顔。
全てを汲み取り理解すれば、静かに彼女は笑んで目を閉じ、自分の意思を再び明らかな物とした。
(…輪…負けないよ?)
載依が視線を壇上に戻せば、ばっ!!と片手を大きく広げて、姫子と陽太郎が自分のデュエルウォッチを示すのが見える。
先程から解っていた事ではあったが、そこから導き出される事実は一つであった。
「当然!!私達もこのデュエル参加しますわよ!!アイドルだからって、手加減なんか無用ですわよ?!」
「過酷な条件だとは思うが、それでも皆でデュエルを楽しんで欲しい!!勿論、皆とオレがデュエルするのも、楽しみに待っているぜ!!」
呼応するかのように、選手達の声が響き渡る。この大会の幕が開くのを、誰もが待っている顔である。
それを制するかのように、壇上の二人はそれぞれ片手を彼等に向かって突き出した。
しんとその場が静まれば、残っていた最初の場面での大きなイベントを行うべく、声が放たれた。
「では…別会場で説明を行っている前大会チャンピオンから、選手宣誓の言葉がありますわ。」
「モニター映像で申し訳無いが、大事な話だ。では、お願いするぜ!!」
陽太郎が手を奥のモニターへと向けた瞬間、電源が入り、映像が開く。
写されていたのは一人の青年であった。金色の柔らかい髪を揺らし、まるで貴族のような大袈裟な白い服に身を包んだ男。
分別するならば美形、の部類に入るのであろうその男が画面に現れた瞬間、彼は言葉を紡ぐべく、静かに口を開いていた。
『皆、今日和。あるいは、始めまして。僕が選手宣誓を執り行う事になった前大会チャンピオン、鋼 裁己(はがね さばき)だ。今日は皆と戦える事を光栄に思う。』
外見から想像される通りの、繊細で透き通るような、男の声とは思えないような美声が聞こえる。
会場から一部その声に思わず現を抜かすような表情をする者も現れる中、裁己と名乗った青年は話を進めていた。
『今回の「DUEL REVOLUTION」はとても過酷なルールだ。不満を申し立てる方もいると思う。だけど、僕から一つだけ、言わせて欲しい事がある。それはどんな状況においてもデュエルを、そして自分の持つカードを愛し、信じ抜き、そしてデュエルを楽しんでもらいたいと言う事。勝ち負けでは決まらない大事な何かがあると言う事を、是非皆にも解ってもらいたい。』
言葉を聞いて、輪は横にいる載依へと視線を向ける。彼女と同じような事を彼もまた、口にしていたからである。
気付いた彼女は静かにこくり、と一つだけ頷いて、少年に近づいて小さな声で耳打ちをした。
「…人物的にはちょっとナルシスト入ってて、苦手なタイプなんだけどさ…デュエルに対する愛は本物だよ。そこは尊敬出来る。」
何となくではあるが、彼がどういう人物かを把握し、輪は安堵の息を漏らす。
自分が信じた本当に大切な事が、正しいような気がしていたから。彼の言葉を聞いて、その想いをより一層深めていたからである。
視線を再び映像へと向けたその時には、そこに映った青年が胸に手を当て、選手一同に向かって一礼するかのようにしているのが見えていた。
『勿論、僕への挑戦も自由だ。皆が自慢のデッキで僕に向かってくるのを楽しみに待っている。全力で迎え撃とう。それが僕なりの、最大限の礼儀だ。』
俯いた顔。そこに隠れた、強い闘志。
誰もがそれを想像した瞬間、裁己は強い表情で前を向き、あらん限りの声を上げて衣服を翻しながら、大きく口を開いた。
『では、僕達はカードを愛し、デュエルを楽しみ、その果てにある優勝を目指して戦う事を誓う!!この言葉をもって、「DUEL REVOLUTION、開戦とする!!』
今までの彼の調子とは、想像も出来ないような感情を剥き出しにした声。
それに続くように映像が途切れ、陽太郎、姫子が同じような調子で叫んだ。
「デュエル可能時刻は今から三十分後!!それまで各自、島内の好きな場所で待機!!」
「登録したデッキの変更は無し!!時間が来ればウォッチが動き出しますわ!!」
最後に伝えるべき事をそれぞれ言い放てば、まるで即興で作り合わせたコンビとは思えない程重なったタイミングで最後の言葉が告げられる。
「「それでは!!「DUEL REVOLUTION」、スタート!!!!」」
何が待ち受けているのかも解らない、不定形の未来。
そこに何があるのかを求めながら、今、戦いが始まる。

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